研究

【活動報告】分光学会ニュースレター2017年春夏号に寄稿しました

2017年6月1日発行の「分光学会ニュースレター2017年春夏号」(要 会員パスワード)に,年次講演学会受賞記事を寄稿しました.

分光学会ニュースレターとは,日本分光学会が年に二回オンライン発行している広報物で,閲覧するには分光学会の会員パスワードが必要です.

 

日本分光学会が発行するニュースレター(NL)は,分光学に関わる研究者や分光器メーカーの方々に,日ごろの成果を“宣伝”する場として用意しました.なかなか専門外の人に見てもらえない重たい論文にひそむ本当にわかってもらいたい趣旨や,パンフレットにはなかなか書けないような製品の具体的なセールスポイント,若手研究者の熱意表明などを書いていただき,論文・製品・若い芽に興味を持ってもらえるよう企画,編集することにしています. NLは年2回,会員専用のWebページに掲載(オンライン発行)いたします.研究紹介,製品紹介,部会の活動や学会報告などにぜひご活用ください.

日本分光学会HP
分光学会ニュースレター より

 

今回は,平成28年度年次講演会で若手ポスター賞を受賞してのコメントを寄稿させていただきました.
講演会のポスターセッションでは,多くの先生方にお越しいただき,貴重なご意見をいただくことができました.
また,下記にも紹介していますが,ポスターセッションでの議論を踏まえて講演内容をブラッシュアップし,論文を発表することができました.
改めて,御礼申し上げます.

また,今回ニュースレターという形でアピールの機会を与えてくださった,分光学会・広報委員会の先生方にも,この場をお借りして御礼申し上げます.

 

さいごに,寄稿した文章の原稿を以下に掲載します.

「若手ポスター賞を受賞して」

このたび,「腐植物質生成模擬過程のその場赤外分光観測と速度論的解析」の発表で平成28年度年次講演会若手ポスター賞を受賞しましたことを大変光栄に思います.今回このような素晴らしい賞を受賞することができたのは,大阪大学・中嶋悟 教授をはじめ,学会内外の先生方の日々のご指導や励ましのおかげです.また,発表を聞きに足を運んでくださった皆様にこの場を借りて御礼申し上げます.

腐植物質とは,生体有機分子が分解・重合を繰り返して生成した「特定の構造を持たない有機高分子」の総称で,土壌・堆積物中では全有機物の60%を占めるといわれています.私は,グリシン・リボース混合水溶液のメイラード反応による腐植物質生成模擬過程を,新規に設計・開発した熱水反応セルにより試料水溶液を閉じ込めたままその場分光測定し,速度論的な解析を行っています.

ポスター発表では,このセルを用いて試料水溶液中の反応物の減少を透過赤外分光により速度論的に追跡した点を強調しました.良く知られているように,水溶液試料の透過赤外分光測定では水分子の巨大な吸収帯により溶質の吸収帯が見えなくなる可能性があります.本研究ではセルの改良を重ね,試料厚を薄く,なおかつ漏れなく安定して測定できるようにしました.本研究の内容は論文としてまとめられているので,興味のある方は是非ご覧ください.また,同じ熱水反応セルを用いた紫外可視分光によるその場観測や,顕微鏡と組み合わせた共存無機物の触媒作用に注目した研究も行っており,現在論文投稿に向けて準備中です.

ところで,読者の皆様は「分光法」の語源であるラテン語の「spectrum」に,「幽霊・亡霊(spectre)」という意味が含まれているのをご存知ですか?「実体」のない「幽霊」という言葉を語源に持つ分光学が,様々な科学的事象の「実体」を明らかにしてきたことを思うと,じつに可笑しい話だと感じます.地球科学においても,その場分光測定が地球環境動態の「実体」を解明するカギになると期待して,今後も研究活動に邁進していく所存です.分光学会の皆様,今後ともよろしくお願いいたします.

【文献】
石渡良志,米林甲陽,宮島徹 編著:環境中の腐植物質-その特徴と研究法(三共出版,東京,2008)p.3,4.
Y. Nakaya and S. Nakashima: Chem. Lett. 45, 1204 (2016).