研究

挑戦的研究(開拓)に採択された件

科研費の挑戦的研究(開拓)に研究代表者として申請した課題が採択され1年度目が終わろうとしている。
改めて採択に向けてさまざまなアドバイスや励ましをくださった共同研究者や協力者の先生方、審査にあたり多大な時間を割いてくださった審査員の先生方に厚く御礼を申し上げたい。

科研費との付き合いという意味では、私はDC2の切り替えPDの任期が切れた次の年度の学振PDは2年連続の不採択であったが、幸い年度末に教育系のアカデミックポストの内定と、科研費若手研究(環境動態解析)の採択をいただいており、それからの研究は今回の開拓の申請内容に繋がるものであった。

その後、地球科学系の理学分野から、水環境の工学分野に分野替えをしたが、DC2と若手研究で続けてきた環境中の腐植物質の研究はライフワークとして継続し、工学の研究は1から勉強するつもりで取り組んできた。
水環境工学が社会還元に近い分野であることもあり、幸い民間助成の採択には恵まれ、上司や共同研究者の先生の研究費獲得もすさまじく、大腸菌などの細菌やそのゲノムなどを対象とした微生物工学的な研究で猛烈に必要となる消耗品を賄うことができ、着実に業績をだすことができるようになっていった。

そんな中、環境動態解析での若手研究の研究期間が終わり、若手研究2回目の応募の必要が出てきた。
水環境工学で生きていく決意をしていたので、それをメインテーマとした若手研究の獲得が必要だと考え、それなりに経験を積んできた環境動態解析ではなく、土木環境システムでの申請に取り組んだ。

民間助成は打率は低いものの、経験のためと思ってかなりの数に応募していたためそれなりに採択経験があった。そのため、採択率が4割を超えてくる若手研究はたぶん採択されるだろう、くらいの気持ちがあった。
しかしながら現実は甘くなく、2年連続で若手研究不採択が続いた。

一方、最近、若手研究の対象となる研究者の成長を促すためか、2回目の若手研究と基盤B以上/挑戦的開拓への同時申請が可能となっていた。
基盤Cや萌芽は若手研究と同程度の金額であり、若手研究者のambitionを刺激するためか、これらには同時申請できない。

とうぜん私も若手研究を発展させた内容で基盤Bは同時申請したが、開拓はどうすべきか考えていた。
そもそも開拓は大教授であっても不採択となることがあるような、採択率10%程度の超難関課題である。

しかし、何事も経験、そして打席に立ち続けることが大事だと考えて民間助成も乱れ打ちだった私は、開拓もボコられる覚悟で全力であたってみることにしたのであった。
分野は、私のライフワークである腐植物質、そして推し分析法である固体蛍光分光法とした。

実は土壌や堆積物などの固体の地球科学的試料を対象に蛍光測定をするという取り組みは、博士後期課程の途中で思いつき、共同研究者にも恵まれて、独自性と発展性があり世界に打って出れる研究なのではないかという予感はあった。

しかし、研究室配属時から続けていた腐植物質生成模擬反応の研究とその時点の進捗ではうまく繋げることが難しいという判断で、博士課程の半分くらいを割いて取り組んだ固体蛍光は博士論文に入れないこととなった。
とはいえ、最終的には学振の採択課題の最終ゴールにもつながる研究なので、博論の準備をすべき3年の秋には周囲の心配をよそに国際学会に固体蛍光を引っ提げて旅立った。

そのうちの一つである、南フランスでのWOMSは、特にその後の研究人生を大きく変える特別な出張であった。
詳細は別の記事でいつか書きたいと思うが、マニアックゆえ日本人はいないだろうと思っていたその学会で思わず出会った2人の日本の先生とは、蛍光分光関係で深い付き合いが始まることとなる。

そのうちの一人の先生とはさっそく共同研究が始まったのだが、その分野はまさしく水環境工学であり、私の現在の工学でのキャリアにつながる入り口となった。

話を開拓申請時点に戻そう。
これまでに腐植物質や蛍光分光の研究でお世話になっていた先生方が共同研究に加わってくださる算段がついたので、さっそく申請に取り掛かった。

正直に言うと、内容はそれなりに自信のあるものだった。開拓でなく基盤Cや萌芽であれば、ワンチャンスもあり得るのではないか、という計画内容だと自負していた。ただ、ここは開拓。マッチョが上位マッチョに道を空けるネットミームが頭に浮かぶ。

申請1年目の結果は、不採択A。予想外の高評価に、これは俄然やる気がでてきた。
挑戦的研究は、これまでの研究実績があまり重視されず内容勝負との噂で、新しい取り組みである若手申請との併願を行なっていることもあり、それなりに好印象だったのではないかと考えた。

審査員コメントを照会したうえで、さらに蛍光分析法が大活躍しそうなサンプルを扱っていらっしゃる先生に協力いただけることとなり、2年目の申請。
それが花開くこととなった。

6月末に結果が出たので、本格始動からまだ丸一年とはいかない段階ではあるが、審査員の先生、共同研究者の先生の期待に応える成果を出すべく、この一年度は頑張ってきたつもりである。

現在は、指導学生の尽力もあり、国際学会で2本発表のうえ、論文が1本査読中、2本が執筆中という状況である。

また、研究計画の肝となる蛍光装置のオプションの納品も間もなくであり、特殊なサンプルの特別な結果が楽しみに待たれる。

このブログをつかって、研究費採択のコツとかを書くのもいいと思っていたが、
学振特別研究員は1勝4敗、若手研究は1勝2敗、民間助成も何十個も不採択となっている身では、申請のTipsなどと宣うことは気恥ずかしい。

ただ、知らない誰かが心血を注いだ申請を押し除け、知らない誰かが期待を寄せてくれて通してくれた挑戦的研究(開拓)を、「まぐれ」とか「運」の一言で片付けることはしたくない。

長々と買いてきたが、熱意が報われるのには必ずそれなりの理由があるのではないかと思う。

それを見出して言語化する時間は今はないが、自分が進んでいくことだけでなく、後進のために何かを遺しながら走っていこうという気持ちは、ここにきちんと記しておきたいと思う。